船舶関係法規等

船舶関係法規等
_船舶の設計建造には厳守すべき法規・規則が定められている。
政府は国際条約による規定事項あるいは独自の見解により必要と認める事項を
法令として公布する。
_船舶に関する国際間の調整を行うため、政府間海事協議機関(International Maritime Consultative Organization-略称 IMO)
があり、衝突予防、乾舷、復元性、区画、救命、消化、防火構造あるいは
屯数規則、海洋汚染防止条約等、国際条約として取り決める作業を行っている。
_船舶に対する基準の厳守を監督する主な機関は政府と船級協会とであり、
船級協会はまた設計建造の関する独自の実施規則を作っている。
国際条約は船舶の危険度に合わせ常に変化し、それに伴い規則も常に変化している為、以下で一般例を示すが実際には関係ルールを再度読み直す必要が有る。

1. 国際条約
_船舶の設計建造に関連ある主な国際法規は次のごとくであるが、主要部分に
ついては個所において考えなければならない。
1) 海上における人命の安全のための国際条約
_主な内容項目は、一般規定、構造(区画及び復元性)、機関及び電気設備、
防火、火災探知及び消火、火災予防手段、救命設備、無線電信及び無線電話、
航海の安全、穀物の積載、危険物の運送、原子力船。
2) 船舶からの汚染防止のための国際条約-1973年及び1978年議定書
_基本設計関連の項目としては、
(i) 150 G.T.以上のタンカーは、タンクの洗浄装置と洗浄水の移送装置ならびに
貨物艙容積の3%以上のスロップタンクの設置、油排出監視制御装置を有すること。
(ii) DW 20,000t 以上の原油タンカー及びDW30,000t以上のプロダクトキャリヤの
専用バラストタンクは、原油洗浄の貨物油タンク洗浄システムを備える。
(iii) DW 20,000t 以上の原油タンカーは、原油洗浄の貨物油タンク洗浄システムを備える。
(iv) 400 G.T.以上の船舶は既存船を含めて、ビルジ等の処理に使用する油水分離器の
設置、また 10,000G.T.以上の船舶ではこれに監視装置と制御装置付であること。
(V) 150 G.T.以上のタンカー、4,000G.T. 以上の非タンカーで新造船は
燃料タンクにバラストを入れることの禁止。
(vi) 新造タンカーに対し、損傷時の区画復元性に関する規定。
(vii) 非タンカー船で200m3 以上の油を運送出来る船はタンカー規定を適用。
ただし 1,000m3 未満の場合、油の船内貯留設備は不要。
(viii) 油の排出基準
3) その他の国際条約
a) 満載喫水線に関する国際条約
(International Convention on Load Line)
b) 1969年の船舶の屯数測度に関する国際条約 (International Convention on Tonnage Measurement of Ship, 1969)
c) 船員設備に関する条約
(International Labour Organization - ILO)
_主な項目は、寝室床面積、寝室占有人数、個人用寝室及び事務室の
設置基準、寝台最小寸法、食堂床面積とテーブル・腰かけ設備、冷蔵庫・
飲料水設備、休養・娯楽設備、衛生設備、その他騒音規制の関する勧告。
c) 港湾労働安全規則(Harbor Regulation)
_1932年の「港湾荷役労働者の保護に関する条約」に基づき、各国は船舶の
荷役設備及び荷役作業に関する規則を作っている。

2. 本邦規則(Japanese Rules & Regulations)
_船舶の運航は国際的性格を多分にもつため、その安全性確保のための
主要事項については各国法規は国際条約に拠るものが多いが、条約本文で
余り細部にわたって規定することは困難であるため、詳細については
各国政府に任されており、見解の相違によって必ずしも同一でない点もある。
1) 設計関連の主な法規
船舶積量測度
船舶安全法
_鋼船構造規程
_船舶防火構造規程
_船舶設備規程
_船舶機関規則
_船舶救命設備規則
_船舶消防設備規則
_満載喫水線規則
_船舶区画規程
_船舶復原性規則
_穀類その他の特殊貨物船舶運送規則
造船法
船員法
船舶職員法
海上衝突予防法
海洋汚染防止法
電波法
その他、国際電気通信条約無線通信規則、労働安全衛生規則、商船船員災防止規程等
_上記のうち、基本設計段階で特に関連深い物については概述してあるが、 以下には法規関係の主な用語と未記述の関連規程の要点を挙げておく。
2) 主な法規関係用語
a) 登録寸法
_法規で用いられる主要寸法の定義は普通用いられているものと若干異なる。 ここでは参考のため、英、米国での定義も併記しておく。
i) 登録長さ
日本:後端は、舵柱のあるとき、舵柱の後面又はその延長と上甲板梁上の線との交点。舵柱のないとき、舵頭材の中心またはその延長と上甲板梁上の線との交点。前端は上甲板梁上における船首材の前面。
英国:後端は、舵柱のあるとき、舵柱の頂点の後面。舵柱のない時は舵頭材の前面前端は船首材の最上前端。
米国:後端は、舵柱のあるとき、舵柱の後面またはその延長と測度甲板との交点。舵柱のないとき、舵柱材の前面またはその延長と測度甲板との交点。前端は測度甲板における船首材側面の外板の前端。
ii) 登録幅
日本:船体の最広部において肋骨の外面より外面までの水平距離。
英国、米国:船体最広部の上甲板以下において、相対する外板の外面より外面までの水平距離。ラップした外板の厚みを含み、防舷材の厚さは含まない。
iii) 登録深さ
日本:登録長さの中央において、キール上面から上甲板梁の船側における上面まで
英国:登録長さの中央において、船体中心線における二重底内底板または肋骨の上面から測度甲板またはその延長線の下面まで。
米国:測度甲板長さの中央において、船体中心線のおける二重底内定板または肋板上面から測度甲板またはその延長線の下面まで。船底内張りがある時は英米とも内張上面をとる。
b) 船舶の資格

資格 長さの制限 速力の制限 航行区域
第一級船 >=60m >=10ノット 全海域
第二級船 >=30m >= 8ノット 遠洋を除く
第三級船 >=20m >= 6ノット 沿海、平水
第四級船 無し 無し 平水

c) 航行区域
平水区域:湖川、港内及び特定の区域。
限定沿海区域:瀬戸内海または水平区域からその船舶の最高速度で2時間以内に往復できる限定された区域。
近海区域:東経175゚,南緯11゚,東経94゚,北緯63゚の線で限られた区域。
遠洋区域:全ての海面を包含する。
d) 国際航海
一国と他国との間の航海。一国が国際関係に責任を有する地域または国際連合が施政権者である地域はこれを別個の国とみなす。
 短国際とは、航海を開始した国の最後の寄港地と最終の到着港との間の距離が600海里を越えず、また航海中、人員の安全を期し得る港または場所から200海里を越える事のない国際航海をいい、それ以外を長国際航海という。
e) 旅客船
 旅客とは、”船長、船員または船舶中の職業のために雇われあるいは従事する者、及び1年未満の小児”以外の乗船者で、旅客とは旅客定員が12名を越える船舶をいう。
f) 航路・用途別分類
 第1種船:国際航海に従事する旅客船  第2種船:国際航海に従事しない旅客船であって、第5種船以外のもの。
 第3種船:国際航海に従事する500G.T.以上の船舶。
 第4種船:国際航海に従事する500G.T.未満の船舶及び非国際航海の比旅客船で、第5種船及び漁船以外のもの。
 第5種船:5G.T.未満の小型客船及び被曳き客船で第1種船以外のもの。
 タンカー:引火性の液体貨物のばら積み輸送に使用される船舶。
3) 船舶救命設備規則
 本設備規則は”ソラス”の改正により多少変更となっているので要注意
a) 救命艇等の定義
 救命艇長さ:7.3m(場合により4.9m)以上。船尾船楼のタンカーで、救命艇が2隻の場合は8m以下。全備重量は20,300kg以下。
 第1級発動機付救命艇:6ノット以上、燃料24時間分、定員150人以下。
 第2級発動機付救命艇:4ノット以上、定員150人以下。
 手動プロペラ付救命艇:3ノット以上、定員100人以下。
 端艇:所轄海運局長が適当と認める構造のもの。
 膨張式救命いかだ:容器及び艤装品を含め180kg以下、定員は甲板面積0.372M3当たり1人。
b) 救命設備の備付数量
 第1,2及び5種船は省略。
bー1) 第3種船
i) 1,600G.T.以上のタンカーを除く船舶
各舷に最大搭載人員を収容するに十分な救命艇、うち1隻は発動機付とする。
 最大搭載人員の50%を収容する救命いかだ(乙種膨張式を除く)、ただし沿海区域の船舶に付いては緩和されることがある。1個の持ち運び式無線装置を備え付ける。
ii) 1,600G.T.以上のタンカー
 各舷の最大搭載人員を収容する救命艇を備え、各舷少なくとも1隻を第1級発動機付救命艇とする。
iii) 3,000G.T.以上のタンカー
 4隻以上の救命艇、うち2隻は船尾部、他の2隻は中央部に備える。ただし中央部に船楼がない場合にはすべての救命艇を船尾部に備える。ただし4隻の救命艇を船尾部に備えることが不可能な場合には、次の要件に適合する場合に限り、各舷に1隻の救命艇を備える。
iii-1) 救命艇の長さが8m以下。
iii-2) 救命艇の後端がその長さの1.5倍当該船舶の推進器の前方にあること。
iii-3) できるだけ海面に近く積付ける。
iii-4) 最大搭載人員の50%を収容するため十分な救命いかだを備える。
b-2) 第4種船
i) 遠洋・近海区域
 各舷に最大搭載人員を収容するため十分な救命艇または救命いかだ(乙種膨張式を除く)を備える。
ii) 沿海区域
 最大搭載人員を収容するため十分な救命艇または救命いかだ(乙種膨張式を除く)を備える。
 以上の場合、タンカーの救命いかだは個型救命いかだとする。
c) 救命艇揚おろし装置
i) 第1,3種船の救命艇揚おろし装置のダビットは重力型とする。ただし振出し状態における重量が2,300kg以上のもののダビットはラッフィング型のものでよい(1,600G.T.以上のタンカーを除く)。
iii) 第1,3種船に備え付ける救命艇は、ワイヤロープの吊索及び所轄海運局長が適当と認めるウインチにより取扱われること。なお、救命設備のついては、今後、新型式のものが積極的に認められる方向にある。
4) 船舶防火構造規程
a) 国際航海に従事する旅客船(省略)
b) 国際航海に従事する 4,000 G.T. 以上の船舶であって旅客船及び漁船以外のもの。
i) 船体、船楼、構造隔壁、甲板及び甲板室は、官海官庁が火災の危険を考慮して、他の適当な材料の使用を認める場合を除き、鋼で作られたものでなければならない。
ii) 居住区域における通路隔壁は、鋼またはB級パネルとは、石綿合板のごとき材料の30分の標準火災試験が終わるまで炎の通過を防止することができるような構造のものをいう。
iii) 調理室、塗料庫、燈具庫、居住区域に隣接する甲板長倉庫及び非常発電機室の隔壁は鋼またはこれと同等の材料のものでなければならない。
 尚、その後の改正SOLASでは、 500 G.T. 以上のタンカー及び油兼用船の防火構造が強化され、居住区域と機関室・貨油槽区域との境、居住区内から外舷への脱出経路には防火壁の設置あるいは可燃性材料の使用制限等が規程され、また、今後、防火構造・消火装置はより強化される傾向にある。
5) 船舶設備規程
ここでは旅客船関係については省略する。
a) 船員室
船員室の定員は次の各号の計算法による員数の中、小なるものとする。
i) 船員室の容積 (m3) を次表の単位容積で除した数。
ii) 遠洋区域の船舶の船員室については、寝台の数、その他の船舶の船員室については、寝台を備えるときは寝台の数と寝台外の座席の面積 (m3) を次表の単位面積にて除した数との和、寝台を備えないときはその座席の面積を次表の単位面積で除した数。
 ただし、沿海区域の船舶で、最遠里程12時間以上の場合は近海区域の算定法に準ずる。

航行区域 単位面積 (m2) 単位容積 (m3)
遠洋 人につき1.10m2以上の寝台を備える 2.75
近海 1.10 2.05
沿海 0.55 1.15
平水 0.45  -

b) 錨、錨鎖及び索
 錨、錨鎖及び索は艤装数により表によってあたえられる。
 ここでは本表を省略するが、とくに無桿大錨の合計重量は、ほぼ 8.0 x (艤装数)^0.87, (kg) で表される。
 ここに、鋼製汽船における艤装数とは、鋼船構造規程による船の深さと幅との和にその長さを乗じた数に、船楼または甲板室の種類に応じ、次の長さを加算したものをいう。
i) 低船尾楼または低船尾楼を有する船舶においては、その楼の長さと高さを相乗した数。
ii) 船首楼、船橋楼または船尾楼は、船楼の長さと高さを相乗した積の3/4。
iii) 船の幅の 1/2 を越える長さまたは幅を有する甲板室その他類似の構造物を備える船舶にあっては、その長さと高さの相乗積の 1/2 。
 また、船級協会は、次の算式による艤装数 (Epuipment Number, N) に対し、錨、錨鎖等の重量、寸法、数量に対する表 (省略) を与えている。
N=△^(2/3)+2B・H+0.1A
ここに、
△:下記満載喫水線における型排水量 (t)
B:船の型幅 (m)
H=f+h
f:船の中央における型深さと夏期満載喫水との差、(m)
h:船楼及び幅がB/4を越える甲板室の船体中心線における合計高さ、(m)
A:満載喫水線上の前後部垂直線間の側面積 (m2) で、幅がB/4をこえ、かつ高さが 1.5m をこえるもののみを算入する。
錨は普通3個を規定されているが、無桿大錨の場合の合計重量は、上記艤装数Nに対し、ほぼ、 8.7xN(kg)
で表される。なお、鋼杷持力型錨を使用する場合は、錨重量は表数値の 75% まで軽減することができる。
 その他の主な設備装置関係として、操舵装置、無線方位測定機、レーダー、無線電信及び無線電話等の規程がある。

3. 主な外国規則 (Rule & Regulations of Foreign Countries)
主要造船海運国は船舶の設計建造に関し、とくに設備関係の細目についてそれぞれ独自の規則を設けており、普通、船主から適用規則の指定がある。主な外国規則には次のごときものがある。
英国:Department of Trade から発行されている The Merchant Shipping Rules (通称 DOT 規則)
米国:United State of Coast Guard が発行する規則 (通称 USCG 規則)
ノルウエイ:The Maritime Directrate から発行される Norwegian Ship Control Legislation (通称 NSC 規則)
西ドイツ:主として See-Berufsgenossenschaft の発行する規則(通称 SBG 規則)
以上のほかILO条約に基づく港湾労働安全規則として、英国、米国、インド、カナダ、オーストリア等各国のものがある。

4. 船級協会 (Classification Society of Shipping)
主要造船海運国には政府の認めた法人組織の船級協会があり、船舶の建造等についての管理をまかされている。各国船級協会の主なものは次のごとくである。

国名 船級協会名 略称
日本 日本海事協会 NK
英国 Lloyd's Register of Shipping LR
米国 American Bureau of Shipping AB
ノルウェイ Det Norske Veritas NV
フランス Bureau Veritas BV
西独 Germanischer Lloyd GL
イタリア Registro Italiano RI
ロシア Register USSR RS

_船級協会の基本的目的は、入級船の耐航性維持の確認にあって、船体・機関等に関する設計図の承認、材料検査、製造検査及び損傷復旧工事の検査等を行う。すなわち船級協会は船舶の建造と保守並びに石油・冷蔵貨物その他危険物対象として保険業者から認められる。船舶自体あるいは運搬貨物に対する保険業務は海上保険業者が扱っている。
_船級協会規則と法則とは原則として同一内容のものであるが、例えば船体強度、構造等重複する事項について異なった基準による場合は、入級船については船級協会規則はそのまま政府に寄って承認される。ただし非入級船舶は所轄官庁の検査を受けなければならない。
_主要船級協会の船級符号は次表のごとくである。
_なお船級符号には次ぎにあげる項目に関し、追加符号を付記することがある。
_航路制限、用途が限定されている船の種類、特定鉱石倉あるいは耐氷構造に対する船体補強、防触コントロール、イナートガスシステム、機関部の自動化等。

船級協会名 船体 機関 艤装
NK NS MNS -
LR
100A,A CMS E
AB A1 AMS E
NV 1A2 - -
BV Ⅰ 3/3,Ⅱ 5/6 - E
GL 100A4 - -
RI 100A1 - -
RS KM - -