船型

 船 型 (Type of ship)

平甲板船 (Flush Decker)
 甲板上にはほとんど構造物がなく,単に機関を保護する機関室囲壁 (Machinery casing) を中央に持つだけで,ほかに小さな甲板室 (Deck house) づくりの船橋 (Bridge) を持つだけの船型である。この型は帆船から汽船に進化した最初の型である。


三島型船 (Three islander)
 帆船は波に乗って走り速力も小さいが,汽船となれば風波のいかんを問わず大きな速力で波をけって進むから,荒天の際船首甲板は波に洗われて仕事ができない。それで船首を一段高くした船首楼 (Forecastle; F'cle.) ができた。これは波をしのぐとともに,海賊横行時代大砲を据付けるのに好都合だったので,前砦 (Forecastle) と名付けられたものである。船尾には船の生命を托する舵取部があり,それを保護すると同時に,追波を防ぐために船尾楼 (Poop) ができた。船の中央部では機関を保護するため,船橋楼 (Bridge 古くは Middle castle) ができた。このように船首楼,船橋楼,船尾楼を持った船を三島型という。
三島型は実用上から進化したもので,外観も整備しているから船の標準型と見られ,普通の船はたいていこの型に属する。
船を操縦するには船全体を展望する展望台が必要である。そのために船橋楼は欠くべからざる構造物であるが,船橋楼だけで不足を感ずるようになってからは,その上に端艇甲板 (Boat deck) をつくり,なお不足するときはまたその上に航海甲板 (Flying bridge or Navigation bridge) を重ねるのが普通である。
 客船では水線以上に,できるだけ多くの部屋が欲しいから,船橋楼の上に遊歩甲板 (Promenade deck) を重ね,その上にボート甲板や航海甲板をつくり,大客船となれば,さらに甲板を増すこともあり,船尾楼も二層以上とすることもあるが,船首楼の方は乗心地が悪く住居区域に適しないから,甲板を重ねることはない。
変形三島型船 (Modified three islander)
世の中が複雑となるにつれて船型も非常に変化し,特殊用途のため,二島または一島の船も多くできているが,要するに三島型船の変型である。低船首楼船 (Sunken or Monkey F'cle. vessel)
小型船で船員室が不足するが,普通の高さの船首楼では高すぎて釣合いがとれない場合には,上甲板を1mほど高くして船首楼をつくったのが低船首楼である。この船型は小型船に限られ,それも近来は少なくなっている。


低船尾楼船 (Raised quarter deck vessel)
 これも小型船に限られ,低船首楼と同じく上甲板を切り下げ,その上に船尾楼をつくって船員室にした構造であるが,これにはこの部分の上甲板を切り取って船員室を無くした構造もある。そのときは上甲板がないから,上甲板が階段状に船尾楼のところで1mほど高くなっているわけである。 Raised quarter deck を直訳すれば,後部 (Quarter) が隆起した甲板船となるが,現在では上記両構造とも低船尾楼船と呼ばれている。こんな船型ができたのは小型船では後倉を縦貫する軸路 (Tunnel) のため積荷の容積が不足し,満船したとき船尾の船脚が不足する傾向があるから,船尾の上甲板を高くして容積を増し,船脚を調節するために設計された構造である。近来はこの船型も非常に少なくなっている。
ウエル甲板船 (Well deck vessel) (井戸のある船の意)
 (a) Flush deck vessel 平甲板船
 (b) Three islander 三島型船
 (c) Vessel having monkey or sunken forecastle, bridge and hood or short poop 低船首楼, 船橋楼, 短船尾楼を有する船
 (d) Vessel having forecastle, bridge and raised quarter deck 船首楼, 船橋楼, 低船尾楼を有する船
 (e) Well deck vessel having forecastle, bridge and poop combined 船橋楼と船尾楼とが連続した外に船首楼を有するウエル甲板船
 (f) Well deck vessel having forecastle, raised quarter deck and bridge combined 船橋楼と低船尾楼とが連続したほかに船首楼を有するウエル甲板船
 (g) Shade deck vessel 日よけ甲板船
 (h) Awning deck vessel 覆甲板船
 (i) Oil tanker 油タンカー 甲板室の船橋楼を持つ船
 (j) Turret deck or trunk deck vessel タレットまたはトランク甲板船
 (k) Shelter deck Vessel 波よけ甲板船
 (l) Section of turret deck vessel タレット船横断面図
 (m) Section of trunk deck vessel トランク船横断面図
 船首楼と船尾楼 (または船尾楼と船橋楼と継がって) 両船楼間がウエル(Well) になっている船で,この間舷側には舷墻 (Bulwark) があり,波が打ち込むと一時的に水が溜って井戸のようになる。三島型でも船楼間でブルワークだけのところをウエルということもあり,そのときは前のウエル (Fore well), 後のウエル (Aft well) という。


覆甲板船 (Awning deck vessel; Awning はテントの意)
船の強力は第二甲板でもたせ,その上に軽寸法の甲板を張って客室等の軽量構造としたものを特に覆甲板と呼んだことがある。そのときは第二甲板は主甲板 (Main deck) と呼ばれていたが,現在はこのような呼称は廃止され,最上の甲板を上甲板,次の甲板を第二甲板と呼ばれる。大客船ではこの覆甲板の上に遊歩甲板,ボート甲板などを構築したものもある。


日よけ甲板船 (Shade deck vessel)
この構造は覆甲板船と似たものであるが,上甲板 (すなわち日よけ甲板) と第二甲板との間の外板に大きな孔をあけたのがその特徴である。日よけ甲板の下には家畜を積むのが目的で,そのため両舷に大きな孔があけてある。


波よけ甲板船 (Shelter deck vessel)
この船型 (遮浪甲板船ともいう) は覆甲板船の構造とほとんど同一であるが,この型には一つの大きな特徴がある。それは上甲板の船尾近くにトン数開口 (Tonnage opening) と呼ばれる,幅は1フレーム距離 (1 frame space)で, 長さは船幅の半分位の細長い横のハッチがあるのがその特徴である。このハッチは覆布で仮に水止めすることは許されるが, 覆布を締め付けて水密にすることは許されない。
このハッチの下の直後には甲板間に水密隔壁を設け,それから後部は普通の船尾楼として取り扱われるが,ハッチ直前の隔壁は非水密とし,その出入口には水密戸をつくることを許されず,木材の挿板 (Weather board) で締め切るようになっている。どうしてこんな変な構造にするのかといえば,これは法律の盲点をついたもので,このような構造にすれば,ハッチから前方の甲板間は理屈上非水密であるから,トン数計算にはこれだけの容積がトン数から除外されて,トン数はそれだけ少なくなり,トン税その他の公課がそれだけ軽減される (その量は1万トン型の船では2千トン位になる)。それならば,実際上この甲板間は非水密であるから,濡れて困る貨物は積めないかといえば,そうではない。ハッチの覆布は仮締めで完全な水密ではないが,余程の荒天でない限り海水がどっと流入するようなことは少なく,たとえ流入しても甲板間は挿板戸相当の水密が保たれており,しかもハッチ下の甲板間の両舷には大きな流失孔があけてあるから急速に排水され,残った水がたとえ挿板戸から若干しみ出したとしても,荷物を濡らすほどのことは少ない (最近,甲板間両舷の流出孔も普通の排水管に変っている)。したがって荷物の保険料率も別に割増しされてはいない模様である。なおその上に吃水の計算では,この部分を完全な船楼として認められるから,吃水計算にはたいした影響が起こらない。要するにトン数開口をつけただけでトン数はいちじるしく小さくなるが,その他のことでは別段の影響がないから,結局トン数を少なくしただけ得になるという結果になる。しかるに1966年の吃水線規則では,隔壁の挿板閉鎖は認めないことになり,波よけ甲板船は全通船楼船とし,その容積は総トン数から除外されることになったので,今後波よけ甲板船はなくなるであろう。


全通船楼船 (Complete superstructure Vessel)
 覆甲板船,波よけ甲板船,日よけ甲板船のように,第二甲板上に比較的軽い甲板を持つ船を全通船楼船といい,その強力並びに乾舷は,第二甲板を基準として計算し,第二甲板上の容積は,総トン数計算から除外されることになった。
タレット甲板船とトランク甲板船 (Turret deck vessel & Trunk deck vessel)
 ともにハッチのサイドコーミング (Side coaming) が普通より高くなっており,それが船倉 (Hold) の全長にわたっているもので,舷側や側板の立上がりに丸味のあるのがタレット,角型の方がトランクである。タレット船は約50年ほど昔に造られたすこぶる優秀な構造であるが,工作が面倒なためその後造られた例がなく,おそらく現在するタレット船は皆無であろう。トランク船は今でも中小型のタンカーに往々見受けられる。


船尾に機関を持つ船 (Aft engine boat)
 船で一番大切なものは機関であるから,船の一番安全な中央部に置くのが至当である。 しかし近来,ことに戦後は機関を船尾に置くことが相当広範囲に採用されている。機関を船尾に置くと,空船のときは船尾が沈み船首が上がり,はなはだしいときは,船首の船底まで水上に露出して航海できないことさえある。それを調節するためには船首に相当のバラスト (Ballast) (船脚調節用の水)を積まねばならず,そのためには若干船体の補強が必要となってくる。反対に貨物を満載すると船首が沈みすぎて,これまた航海が難しくなる。機関を船尾に置くと船員の居室がその周辺に集まり,船尾楼は長大となり,船橋楼は短小の操船用展望台となり,三船楼の釣合いはあまりよくない。
 しかし船尾に機関を置くと,プロペラ軸 (Propeller shaft) が非常に短縮され,後倉を縦貫する邪魔者の軸路 (Shaft tunnel) を省略することができると同時に,小型船でもまとまった長さの船倉 (Hold) を取ることができるから,そこに大きな荷物を少し積んだ軽吃水で,浅い港にも出入りできる利点があり明治の末期には,100トン前後の小型船がマリン トラック (Marine truck) と呼ばれて重宝がられた時代もあったが,その後陸上トラックの発達に押されて衰滅した。船尾機関船で鉱石, 小麦, 石炭のようなザラ荷貨物 (Bulk cargo) を積む船は,荷役設備 (Cargo gear) をまとめるのに好都合である。ことに油タンクの中に軸路を貫通するのは実際上不可能であるから,タンカーは例外なく機関は船尾に置かねばならない。タンカーは多くの横の隔壁 (Transverse bulkhead) で多くのタンクに区分されているから,空船の場合でも適当なタンクにバラストすることで,船脚の調節にはなんらかの不便を感じないものである。


船の体裁 (Style of ship)
 上述の通り船型は時代とともに変遷し,最近になっていよいよはなはだしく,ほとんど極端に近いものさえある。例えば米国の大湖の鉱石を運ぶ船では小さな船首楼だけの船もあるとか。しかし船がまとまった構造物である以上,合目的の美ということも考えねばならない。ディーゼルに煙突は不要であるから,ある大型船に煙突なしの船ができたところ,「あれは船じゃない,呼び出した工場だね」といった人もあった。その当時ディーゼルは煙を吐かないから清潔な船であることを強調して,別府通いの船に煙突をつけなかったところ「船らしくない」というので人気が落ちてしまったため,船会社も仕方なく模擬煙突をつけたこともあったが,最近はまた煙突なしの別府航路船ができたようである。青筒船 (Blue funnel liner) ではディーゼル船でも巨大な青煙突を持っており, Canadian pacific liner は必ず3本の模擬煙突をつけていた。
 戦時船では反り (Sheer) のない型が強制されたが,この種の船が水に浮かんでみると,首尾両端が垂れ下がったように見え,ことに戦時船では船尾を垂直面で切り取って三角形にしたから,なんとも不格好な船が出来上がった。戦後ある船では,船尾だけでもと丸形に改造した船さえあった。タンカーや鉱石船のように,へんぴなところだけを航海する船ならば,船尾だけに大きな船楼を持ち,船尾に大きな煙突を押し立てた船型でも,別に文句もあるまいが,ふつう雑貨を積むために,繁華な港々に出入する船,ことに御客をとる船は,体裁ということも十分考慮する必要があろう。